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誓いの夏から-永瀬隼介 [本]

若さとは、時に未熟で、時に一途で、美しくもあり切なくもある。
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剣道部の部長である慧一は、同じ剣道部で"アイスドール"と呼ばれている
杏子と交際していた。
慧一は『ずっと、守ってやる』と言っていたが、
杏子は家庭教師のアルバイト先で一家殺害事件に巻き込まれる。
唯一の生存者となった杏子に対して、様々な噂や流れ、
慧一と杏子の間もギクシャクしてしまう。
杏子が潔癖であることを慧一が知った時、すでに二人は修復不可能だった。

19年後、思わぬ形で再会した二人...。
慧一は杏子に対して、19年前の約束を果たす。

永瀬隼介の小説を読むのは初めてでした。
昔、少年の時に叶わなかった思いを遂げる男が、切々と描かれています。
ジャーナリストとしても活躍していると言う著者らしく、
緻密な物語が展開されます。
とても心に残る1冊でした。

さよならバースディ - 萩原浩 [本]

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真(まこと=まこ)は霊長類研究センターでボノボ(ピグミーチンパンジー)の「バースディ」に
人間の言語習得実験を行っている。
バースデイは実験のパートナーで、恋人でもある由紀の作った専用のキーボードを使い、
90以上の言語を使うことが出来るようになった。

ある日、由紀に自分の思いを伝えプロポーズしたが、
その晩に由紀はセンターで自殺してしまう。

由紀の自殺の原因を追究する真は、バースディに対する実験の不正を聞き、
由紀が関わっていた事も知ってしまう。
そしてバースディから由紀の自殺の原因を聞くことになる。

バースディが専用のキーボードを使い、
由紀の自殺の原因について質問する真の呼びかけに答えるのだが、
『なるほど』と思いつつも、その内容にはちょっと不満。
と、言ういうよりも全体的に不満である。
緻密な部分もあれば、雑な部分も目立つ作品だ。
しかし、最後のシーンは心に残る名場面だ。

最後にバースディのキーボードを借りて、由紀は真にメッセージを送った。
『ゆき まこ あいしてる』
『ぐばい まこ』

アヒルと鴨のコインロッカー - 伊坂幸太郎 [本]

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大学進学のために引っ越して来た椎名は、
隣の部屋の河崎に「本屋を襲って、広辞苑を奪う」手伝いを頼まれる。
優柔不断な椎名は手伝ってしまうが、河崎が奪ったのは「広辞林」だった。

その2年前、ペットショップでアルバイトをしている琴美と彼氏のブータン人のドルジは、
ひょんなきっかけから連続ペット殺し事件の犯人を知ってしまう。

2年前の琴美とドルジと河崎、現在の椎名と河崎、そしてペットショップのオーナーの麗子、
椎名と琴美の別々の物語が、やがて繋がって行く。

良い本でした。
「なぜ広辞苑ではなく、広辞林だったのか」、
「なぜ河崎は椎名に『麗子と関わるな』と言ったのか」、
「悲しい結末」、「復讐」、「輪廻」...。
とても奥深く、考え深い物語だと思います。

クローズド・ノート (Closed Note) - 雫井脩介 [本]

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ちょっと"天然"の香恵が引越し先の押入れで、
前に住んでいた人が忘れて行ったノートを見つける。
読んでみると、持ち主は小学校に勤める「伊吹先生」だと分かった。
ノートには学校生活を送る伊吹先生の教育に関する楽しみや悩み、
片思いの「隆」に対する想いや不安が綴られていた。
ノートを返すために小学校を訪れた香恵は、
修了式の日に伊吹先生が事故で亡くなっていた事を聞かされた。
ノートは修了式の前日で終わっていたのだ。

一方で、文具店でアルバイトする香恵は、万年筆を捜しに来たイラストレータの隆作と出会う。
以前に自分の部屋を見上げていた隆作を覚えていた香恵は、次第に心惹かれるようになる。
ある日、隆作にモデルを頼まれた香恵は、自分の部屋から外を見下ろす写真を撮った。

やがて初めての個展に招かれた香恵は、
伊吹先生のノートに書かれていた「隆」が隆作のことだと知る。
隆作が描きたかったのは、隆作を部屋の窓から見送る伊吹先生だと言うことにも気づいた。
そして、伊吹先生のノートの最期に書かれていた、
隆作に伝わることが無かった伊吹先生の思いを、香恵は隆作に伝える。

クローズド・ノートを読み始めて、物語の前半で「隆=隆作」と想像がついてしまうのだが、
その後の小気味良い流れが、退屈させることなく楽しませてくれる。
主人公の"天然"の効果もあって、心温まる作品に仕上がっていると思う。

真夜中の犬 - 花村満月 [本]

本をよく読みます。
家には何冊あるのかわかりません。
おそらく数千冊にはなると思います。
そんな中で紹介するのが、花村満月の「真夜中の犬」です。
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花村満月の小説に共通して言えるのが、屈強な男であり、イイ女であり、
暴力やセックスや旅です。
そんな中で、『「真夜中の犬」こそ代表作』と評する人は多いですね。

主人公は"狛犬"と言う元刑事で、
その娘である"幸子"と言う、知的・身体的な障害を持った女の子が登場します。
ちょっと(?)喧嘩っ早い"貢"と言う少年と、狛犬や同年代の少女たちの破天荒な行動が、
やがて貢の死と言う、悲しい出来事を招きます。
物語の中で、貢に対する幸子の恋と悲しみが描かれていますが、
映画の1シーンのように、情景が浮かんできました。
全体から見れば幸子の登場場面はわずかですが、主人公以上に強い印象を与えています。
特に最後のページにおける幸子の描写は、何度読み返しても心が揺さぶられます。

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